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伝統の未来

竹工芸 竹工芸

世界に約47属1250種が知られる竹の仲間は、温暖な多雨の地域に豊富で、東南アジアやインド、中国南部、中央アメリカ、南アメリカまで広がっている。加工しやすい素材であるため、それぞれの風土に合った形で利用されているが、北限の自生地として13属660種を数える日本も例外ではない。

「物語の出で来はじめのおやなる竹取の翁」と『源氏物語』に記されるとおり、日本における物語の初祖とされ、平安時代初期に成立した『竹取物語』は、ことの発端に竹が登場する。成長が速く生命力が強いため、霊力を持つものと考えられた竹は、正月の門松に添え、七夕には精霊の依代とするなど、神祭りに欠かすことができない存在であったからだ。同時にハチク、マダケ、モウソウチクの3種を中心に、木質化した茎は建築材や造園、家庭用具、農具、漁具、楽器、炭などに、さらにタケノコは食用、竹の皮は版画のばれんや食物の包みにと、余すところなく活用されてきた。

しかしカゴやザルなど、生活の中で用いられた竹工品は戦後、安価なプラスチック製品や海外からの輸入品に押されて姿を消していった。またかつては全国の竹林のほぼ9割が管理・経営されていたのに対して、1980年代以降、管理・経営竹林は減少の一途をたどり、現在では全竹林面積の3分の2程度が管理を受けず荒廃していることが、竹資源の有効利用を妨げている。

そのような状況下で、茶筅、和竿、簾、弓など、日用品とは一線を画した技術を保持し、高級化を図った産地を中心に、現在では8カ所が伝統的工芸品の指定を受けている。中でも別府竹細工を抱える大分県は、日本で唯一の公立の竹工芸の教育・訓練機関である大分県竹工芸・訓練支援センターを設けて専門人材の育成や技術指導を行っており、生産者も高度な技術や意匠性を生かした商品開発や、海外への販路開拓に積極的に取り組むことで、竹工芸の新しい展開の方向性を探っている。

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粗目に潜む精緻|
監修:原 研哉

竹は丈夫さや独特のしなりで、古来より日用品として籠や笊、箕や篩、筆などの素材として用いられてきました。東アジア全域でも竹は最も身近な素材のひとつです。日本の竹工芸は、別府に代表される、ざっくりと目は粗いけれども、そこに素材の美が集約され、むしろ猛烈に繊細な技巧の深まりを見せているという、工芸的な完成度の高さが特徴のひとつです。近年では竹の自然な反りを利用したカトラリーなど、同時代的なデザインも見られ始めており、ここでは日用と工芸美、過去と現在を対比的に展観していきます。

  • 蓋つき籠

  • カトラリー