私の出会ったart&designの本

2010年3月に開催された、第664回デザインギャラリー1953企画展のアーカイブ。
コミッティーメンバーが選んだ「影響を受けた3冊」に、テキストを添えてご紹介します。
多くの人たちの本と親しむきっかけとなれば幸いです。

松永真ポートレート
松永真|グラフィックデザイナー

メンバープロフィール/1940年東京生まれ。1964年東京芸術大学美術学部デザイン科卒。資生堂宣伝部を経て、1971年松永真デザイン事務所設立。主な仕事に、資生堂のサマー・キャンペーン、一連の平和ポスターから、ベネッセ、ISSEY MIYAKE、国立西洋美術館などのCI計画。スコッティ、カンチューハイ、国際コンペ優勝の仏たばこジタン、資生堂ウーノのパッケージデザインなどがある。そのほかドローイングや彫刻、モニュメントまで広範囲なクリエイティブ活動を行う。ワルシャワ、ニューヨークなど国内外の大規模な個展も多く、ニューヨーク近代美術館、ヴィクトリア・アルバート美術館他、世界各国76カ所の美術館などに多くの作品が永久保存。東京ADC賞、毎日デザイン賞、ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ金賞・名誉賞、芸術選奨文部大臣新人賞、日本宣伝賞・山名賞、紫綬褒章、亀倉雄策賞など受賞多数。AGI会員、N.Y.ADC会員、東京ADC委員、JAGDA理事、日本デザインコミッティー理事。

  • 書籍イメージ
  • 書籍イメージ
  • now printing

デザイン随想 離陸 着陸

著者=亀倉雄策 出版社=美術出版社 初版年度=1972年

田中一光 デザインの前後左右

著者=田中一光 出版社=白水社 初版年度=1995年

季刊 たて組ヨコ組 No.57

編集企画=勝井三雄 発行=株式会社モリサワ 初版年度=2002年

今回の企画展“三冊の本”というのは、デザインを専業とするプロフェッショナルがデザイン以前に影響を受けた根源的な何ものかを探ろうとするものであろうと思うがなかなか絞り切れない。一冊目と二冊目に、私は敢えて「デザイン随想 離陸着陸 亀倉雄策」と、「田中一光 デザインの前後左右」を挙げることにした。近代グラフィックデザインの隆盛期とでも云おうか、我々が20代、30代、40代と常にグラフィックデザイン界の強力な牽引車として影響を受けたアナログ時代の両巨匠の随想である。
20数年前のある審査会の休憩時間のことであった。亀倉雄策先生と田中一光先生が私の方を指差して談笑している。私は思わず、「何なんですか両巨匠、気持ち悪いじゃないですか」と冗談ぽく返したら、亀倉先生が「我々は何とか逃げ切れそうだが、松永君はそうもいきそうにないねと一光ちゃんと話していたんだよ」。グラフィックデザインがアナログからデジタルへ、急速な変化を始めた頃の話である。
21世紀の今日、デジタルによる多大な恩恵を受けるその一方で、アナログ時代には当たり前だったデザインの根幹に不可欠な何かが失われつつあるように感じる。
この2冊には、これからデザインを目指そうとする若者にとっても、我々にとっても、消え去ろうとする20世紀の大きな何ものかが横たわっているように思うからである。
三冊目の「たて組ヨコ組 57号」は、本ではなくて、写真植字の製作会社であった頃のモリサワのPR誌であるが、グラフィックデザイナーにとって一般のデザイン誌をも凌ぐ人気であった。アートディレクションは田中一光・勝井三雄であったが、その田中一光が亡くなった時の追悼集である。たった一人のグラフィックデザイナーが、これほど多岐に渡って仕事をこなしたことも驚きだが、どのジャンルの仕事も一流であり、これほど多彩な人々から評価分析された書として希有であると思うので取り挙げた。

Copyright©Japan Design Commitee Co., Ltd.