私の出会ったart&designの本

2010年3月に開催された、第664回デザインギャラリー1953企画展のアーカイブ。
コミッティーメンバーが選んだ「影響を受けた3冊」に、テキストを添えてご紹介します。
多くの人たちの本と親しむきっかけとなれば幸いです。

北川原温ポートレート
北川原温|建築家

東京芸術大学教授。北川原温建築都市研究所主宰。1951年長野県生まれ。1974年東京芸術大学卒、1977年同大学院修了。マラルメの詩をモチ-フに建築や都市を構想するなど、文学や美術を参照した設計で知られている。英国王立建築家協会、ウィ-ン美術アカデミ-、ハ-バ-ド大、コロンビア大、サンパウロビエンナーレ、オランダ建築博物館等の建築展に出品。主な作品にビッグパレットふくしま(日本建築学会賞作品賞)、岐阜県森林文化アカデミー(日本建築学会賞技術賞、BCS賞、アルカシア賞ゴールドメダル、イタリアIA賞、ケネス・ブラウン環太平洋建築賞大賞等)、宇城市不知火図書館美術館(日本図書館協会建築賞)、アリア(グッドデザイン賞金賞)、ONE OF A KIND/ネザーランド・ダンス・シアター/舞台美術(ベッシー賞)、日本ペンクラブ、キース・ヘリング美術館(村野藤吾賞、日本建築大賞)等。2008年ベルリンにヨーロッパ事務所を開設。

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Marcel Duchamp - Work and Life

著者=Pontus Hulten 出版社=The MIT Press 初版年度=1993年

マルセル・デュシャンは現代美術の父である。母はと言えばマン・レイの恋人だったメレ・オッペンハイムだと僕は思う。
建築科の学生達がコルビュジエやミースを勉強しているときに僕はデュシャンとオッペンハイムに夢中だった。ノーベル文学賞を受賞したメキシコの詩人オクタビオ・パスは著書『純粋の城・水はつねに複数形で書く』の中で、近代絵画はマルセル・デュシャンとパブロ・ピカソという両極の間で生きてきた、二人はおそらく20世紀にもっとも大きな影響を及ぼした画家であった、と言っている。正鵠を射た分析だ。デュシャンの作品はどれもスキャンダラスである。それらがこうして一冊の本におさまっている。僕らをたぶらかそうと。

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Josip Plecnik(ヨージェ プレチュニク)- Architekt pražského hradu

出版社=Správa Pražského hradu 初版年度=1996年

東欧の建築家ヨージェ・プレチュニクはチェコスロバキアの初代大統領マサリクに請われてプラハ城の改造を手掛け、優雅な大統領官邸を完成させた。
以前、その大統領官邸を訪れる機会があった。この本-プレチュニク作品集はそのときに当時のチェコの大統領ヴァツラフ・ハベル氏からいただいたものだ。
かねてから強い関心を抱いていたプレチュニクの代表作である官邸を隈なく見学し、衝撃を受けた。どうしてこんなに気品のあるデザインができるんだろうと。スラブ的だが、プレチュニク様式としか他に言いようのない個性が随所に潜み輝いている。

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白井晟一全集 SIRAI SEIITI COMPLETE WORKS Ⅰ

著者=白井晟一研究所 出版社=同朋舎出版 初版年度=1988年

白井晟一は学生のときから憧れの建築家だった。代表作のひとつ、佐世保の親和銀行を見たときの感動は今でも忘れられない。
白井晟一は建築を哲学の実践として考えていた。彼の建築は厚く、深く、高く、そして重い。この作品集もぶ厚く、ずっしりと重い。まるで彼の建築のようだ。重々しい空間と時間が詰まった本だ。
それは開かなくても、そこに置いてあるだけでも饒舌に語りかけてくる。軽く薄くフラットな現代社会の中で、化石のようなこの本が好きだ。

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