私の出会ったart&designの本

2010年3月に開催された、第664回デザインギャラリー1953企画展のアーカイブ。
コミッティーメンバーが選んだ「影響を受けた3冊」に、テキストを添えてご紹介します。
多くの人たちの本と親しむきっかけとなれば幸いです。

田中俊行ポートレート
田中俊行|空間デザイナー

東京生まれ。1965年武蔵野美術大学卒業。乃村工藝社アートディレクター職を経て1983年(株)空環計画研究所を設立。EXPO'85政府出展歴史館アートディレクター、江戸東京博物館展示基本計画、笠懸野岩宿博物館建築・外構基本計画・空間デザイン、大磯郷土資料館、新宿パークタワーOZONE基本空間デザイン、科学技術館エレクトホール、九州電力玄界エネルギーパーク、トヨタ博物館本館及び新館デザイン、電通アド・ミュージアム東京、west53rd日本閣デザインアーキテクト、などが主な仕事。日本の空間デザイン年賞最優秀賞・優秀賞、朝日新聞社賞、通商産業大臣賞、マルチメディアグランプリ最優秀賞、商環境設計家協会デザイン大賞など受賞。公職に江戸東京博物館運営委員会委員、DDAデザイン賞審査員、〜2005年武蔵野美術大学及び東京芸術大学非常勤講師など。著書に「e-space」(六耀社)「スペースメディアデザイン」(icon)。

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ダダ—芸術と反芸術

著者=ハンス・リヒター 訳=針生一郎 出版社=美術出版社 初版年度=1966年

表象の美学

著者=マルセル・デュシャン 訳=浜田明 出版社=牧神社 初版年度=1977年

マルセル・デュシャン語録 新版

著者=瀧口修造 出版社=美術出版社 初版年度=1982年

60年代半ば、美大のデザインといっても担当教授は日本を代表するシュールレアリストであり、ダダイズムについて語るのが常だった。教授が「ダダだ!」と訴えるのが何故だか知りたくて「ダダ—芸術と反芸術」を手にした。これが、デュシャンとの最初の出会い。デュシャンは、人生そのものを悲しい機知、謎解きも不可能な無意味としか見ない立場を取る。その概念を提示した〈レディ・メイド〉(既製品)は、そう名付けさえすれば芸術作品になると指令した。それを如実に語る作品—〈泉〉と題した(便器)に、R・MUTT(衛生器具商会名)と記した。「重要な特徴は、わたしが自分のレディ・メイドの表題とした文章の短さにある。このような文章は、観衆の思想を、言葉の〈文学〉の領域に導くことを意図していた。」と語っている。その作品の構造においてひとつの共通の流れを作っていると感じさせるのは、〈文学〉の領域があるからだと実感した。その概念を明晰に伝えているのは「マルセル・デュシャン語録」である。68年初版だが書籍番号がついているほどの希少な出版作品。当然私の手元に入るものではなく、知人から書籍番号371を借り全頁複写し製本して、私の「デュシャン語録」とした。82年に新版は刊行。その一語「煙草のけむりを1センチ立法取って、外側と内側を防水顔料で塗る。」などの“発酵するデュシャンの言葉”を読み返し、読み返した。厄介な宇宙言語に迷い込む時間であり、思考と発想への脳内ビタミンでもあった。今思えば、私のデザインする空間が「文化の体系を共感の文脈へと、その意味を象徴していくこと」を目指すのは、デュシャンの造形技法と文学言語の関係性に価値を見いだしたからだと思う。77年出版された「表象の美学」は、自作の解析を記述した膨大な覚え書きや言葉遊びや警句、評論など“書き手=文学者”としてのデュシャンが集大成されている。デュシャンの謎めいた意味の連鎖に、まずは出会ってみて欲しい。

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