私の出会ったart&designの本

2010年3月に開催された、第664回デザインギャラリー1953企画展のアーカイブ。
コミッティーメンバーが選んだ「影響を受けた3冊」に、テキストを添えてご紹介します。
多くの人たちの本と親しむきっかけとなれば幸いです。

原研哉ポートレート
原研哉|グラフィックデザイナー

1958年生まれ。グラフィックデザイナー。日本デザインセンター代表取締役。武蔵野美術大学教授。アイデンティフィケーションやコミュニケーション、すなわち「もの」ではなく「こと」のデザインを専門としている。2001年より無印良品のボードメンバーとなり、その広告キャンペーンで2003年東京ADC賞グランプリを受賞。近年の仕事は、松屋銀座リニューアル、梅田病院サイン計画、森ビルVI計画など。長野オリンピックの開・閉会式プログラムや、2005年愛知万博の公式ポスターを制作するなど国を代表する仕事も担当している。また、プロデュースした「RE DESIGN」「HAPTIC」「SENSEWARE」などの展覧会は、デザインを社会や人間の感覚との関係でとらえ直す試みとして注目されている。近著「デザインのデザイン(DESIGNING DESIGN)」は第26回サントリー学芸賞を受賞、現代のアクチュアルなテーマへの批評も注目されている。

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日本語の作文技術

著者=本多勝一 出版社=朝日新聞社出版局 初版年度=1982年

「いき」の構造

著者=九鬼周造 出版社=岩波文庫 初版年度=1979年

Typography : A Manual of Design

著者=Emil Ruder 出版社=Arthur Niggli 初版年度=1996年

ことばに目覚めさせてくれた三冊
「ことば」というものに対して意識的になったのはいつ頃かと考えてみた。ことばを相対化していく過程が、ものごとをある美意識のもとに客観的にとらえていく始まり、つまり自分にとってのデザインの端緒であったかもしれないと思うからである。学生時代にはことばや日本語に関する本を比較的たくさん読んだ。本多勝一の『日本語の作文技術』は、叙情性ではなく「わからせる」技術として「書かれた文章」をとらえた傑作で、先日寄藤文平さんが講演でこの本に触れられていたことで思い出した一冊である。
『「いき」の構造』は、「いき」という感覚を思索的構造的に把握しようとする感受性の哲学ともいうべき一冊。ことばという概念を構造的、空間的にとらえた視点が面白く、これに触れることによって、自分の頭の中のことばの時空が多次元的に広がったように思うのだ。
エミール・ルダーの『TYPOGRAPHY』は視覚的な物体としてのことばを合理的に制御していく知性に触れた驚きがあった。バッハが音楽のルール「楽典」を完成させたように、1950年代のスイスのデザイナーたちは、印刷されたことばに数学のような秩序を与えようとした。そこに動いている意識をとても美しいと感じた。
無関係のように三冊であるが、自分の美意識のルーツに関与する貴重な経験をさせてくれた書物である。いずれも初版の美しい風情としてお目にかけられないのが残念であるが。

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